私は、令和4年さいたま地方法務局の筆界特定委員に選任されました(まだ、何もしていませんが)。
そのため、筆界特定制度についての知識を再度学び直すために、筆界特定制度についていくつか記事にしていこうと思ってます。
今回は、筆界特定制度について一般の方が勘違いしやすい点である、筆界特定で明らかになることついて記事にしていこうと思います。
筆界特定制度ですが、法務省のホームページにある『もともとあった筆界を筆界特定登記官が明らかにすることです。』の文言について理解し納得できるかが、この制度を利用すべきかをの判断であると私は思います。
筆界特定制度とは
法務省のホームページには、筆界特定制度について以下のような記載がされています。
・筆界特定制度とは,土地の所有者として登記されている人などの申請に基づいて,筆界特定登記官が,外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて,現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。
法務省HP参照 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji104.html
・筆界特定とは,新たに筆界を決めることではなく,実地調査や測量を含む様々な調査を行った上,もともとあった筆界を筆界特定登記官が明らかにすることです。
・筆界特定制度を活用することによって,公的な判断として筆界を明らかにできるため,隣人同士で裁判をしなくても,筆界をめぐる問題の解決を図ることができます。
【ポイント】
・筆界特定制度は,土地の所有権がどこまであるのかを特定するものではありません。
・筆界特定の結果に納得することができないときは,後から裁判で争うこともできます。
法務省ホームページにて掲載されてます。
筆界特定制度の法律根拠
筆界特定について不動産登記法123条に規定されています。
第百二十三条 二 二 筆界特定 一筆の土地及びこれに隣接する他の土地について、この章の定めるところにより、筆界の現地における位置を特定すること(その位置を特定することができないときは、その位置の範囲を特定すること)をいう。
不動産登記法123条
もともとあった筆界って何?
明らかになるのが『もともとあった筆界』と書いていますが、この『もともとあった筆界』とはどのような意味なのでしょうか。
この言葉の意味は、もともとあった=地租改正など土地の所有が認められた際にあった、筆界=税金の徴収などのために公図などに引いた境目 との意味にかみ砕くことが出来ます。
そして、『もともとあった筆界』は、専門用語でいうと『公法上の境界』と呼ばれるものになります。
『公法上の境界』とは、私人間で自由に動かすことを出来ない境目で、登記所などの国が管理する境界であり、登記や税金のために必要な土地の境目になります。
一方で対義語として、個人間で自由に動かすことの出来る土地の境界を『私法上の境界』と呼び、これは当事者間の自由に合意により、境目を決めることが出来ます。
この筆界特定制度を利用する方の多くは、隣地との境界について確認が取れないから、筆界特定の申請するかと思います。
しかし、この筆界特定制度はあくまで国が管理する『公法上の境界』についてのみ明らかにしようとする制度であり、『私法上の境界』の境界については筆界特定制度は対象としていません。
そのため、この制度を使ったとしても、国との関係については明らかになりますが、隣接当事者については私人間のことなので、解決されません。
隣接者との所有権の境界の特定を目的にしているものではないことを、この筆界特定制度を利用する際には考慮しなければなりません。
以下の規定から、筆界特定制度は所有権が対象ではないことが読み取れます。
第百三十五条 筆界調査委員は、前項の事実の調査に当たっては、筆界特定が対象土地の所有権の境界の特定を目的とするものでないことに留意しなければならない。
不動産登記法135条
筆界特定で明らかになることは?
条文を参照した上で、ご説明します。
第百二十三条 二 筆界特定 一筆の土地及びこれに隣接する他の土地について、この章の定めるところにより、筆界の現地における位置を特定すること(その位置を特定することができないときは、その位置の範囲を特定すること)をいう。
不動産登記法123条
(筆界特定登記官)第百二十五条 筆界特定は、筆界特定登記官(登記官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定する者をいう。以下同じ。)が行う
不動産登記法125条
以上のように、筆界特定で明らかになることは、筆界特定登記官により筆界の現地における位置を特定することであることが条文から読み取ることが出来ます。
しかし、ここでの注意点はこの登記官による特定は以下の条文の反対解釈により、登記官の処分としてみなされない点です。
(申請の却下)第百三十二条 筆界特定の申請の却下は、登記官の処分とみなす。
不動産登記法132条
却下についてのみ登記官の処分とし、それ以外の筆界特定については、条文の反対解釈により登記官の処分ではないと考えられているからです。
つまり、この筆界特定は登記官の筆界を確定する行政処分ではなく、あくまでも現地における筆界の位置に関する登記官の認識を示すに過ぎないものとされているのです。
筆界特定制度は、登記官の認識であり、法律上では当事者に何か不利益や制限を加える行政処分ではないのです。
筆界特定制度により解決できると思ったのに、範囲を特定されただけで、またそれが登記官の認識であることを後で知ったなんてことがないように、事前に確認をして、この制度を利用しましょう。
まとめ
今回は、筆界特定制度で勘違いがしやすい点をあげました。
筆界特定制度という名前から、この制度を利用すれば境界については解決すると思ってしまいがちです。
しかし、これはあくまで登記官の認識であり、また範囲で位置を特定することもあり、期待外れの結末になってしまうことがあります。
ただ、法務局という国の機関が入ることで、中立で詳細な調査が行われ、境界紛争や問題を解決し易くなる点が、この筆界特定制度を利用する一番のメリットであると思います。
『もともとあった筆界』である『公法上の境界』を登記官が明らかにすることは、『私法上の境界』を確認するための大切で重要な資料となるからです。
解決させる制度ではなく、国などの中立な立場の見解を聞くことで、解決に向けて前に進め易くする制度であることを理解した上で、この制度を利用されることを推奨します。
筆界特定制度は、解決のためにあるのではなく、解決への手段です。
土地家屋調査士 小川曜(埼玉土地家屋調査士会所属)