土地家屋調査士には、境界に関する様々な業務がありますが、ある認定考査を受けなければ出来ない業務があります。それは、民間紛争解決府代理業務です。
民間紛争解決府代理業務を行うことが出来る土地家屋調査士を、ADR認定土地家屋調査士と呼びます。
民間紛争解決府代理業務は、土地家屋調査士業務の中でも数が少なく、扱ったことがある先生にお会いしたことがないほど珍しいです。
そのため、お金と時間を費やして取得するのは無駄との意見もありますが、土地の境界を扱う専門家としてその知識は当然持っておかなければならないと思ってます。
今回は、ADR認定土地家屋調査士について記事にしていきます。
ADR認定土地家屋調査士とは
民間紛争解決手続代理関係業務を行うために必要な能力を取得することを目的とした特別研修を修了し、法務大臣の認定を受けた土地家屋調査士をいいます。
土地家屋調査士法3条第1項第7号及び第8号に規定する業務(民間紛争解決手続代理関係業務)を行うために必要な能力を取得した、土地家屋調査士のこと呼びます。
土地家屋調査士は長年にわたり、不動産の表示の登記の専門家として、国民の「財産」へ
日本土地家屋調査士会連合会(第15回土地家屋調査士特別研修の実施について参照)
の安心・安全の提供に多大な貢献をしてきましたが、特別研修の制度ができる前は、土地の
境界の紛争に関しては法的な整備もなく、また土地の所有権をめぐる争いの解決は法曹の専
属とされ、私たちの知見や技能が生かされる場面はなかなかありませんでした。
現在では、特別研修を受講して「ADR認定土地家屋調査士」となることにより、弁護士
と協働で土地の境界紛争の調停の代理人として関与できるようになりました。ADR認定土
地家屋調査士であれば、その培った測量技術や筆界に関する専門性と、法務大臣指定の特別
研修により身に付けた高い倫理や法的知見を活用して、解決に向けて寄り添うことができる
のです。これは国民に、従来からの登記事務手続の代理や調査・測量に伴う「予防司法」に
「紛争解決」の場合も加えて、更なる安心・安全を提供することにほかなりません。
特別研修とは
特別研修については、土地家屋調査士連合会が実施しておりますので、以下を参照ください。
「土地家屋調査士特別研修」(以下「特別研修」という。)は、法務大臣により指定され
日本土地家屋調査士会連合会(第15回土地家屋調査士特別研修の実施について参照)
た国家資格の研修であり、この特別研修を受講し考査に合格した土地家屋調査士には、法務
大臣が「民間紛争解決手続代理関係業務を行うのに必要な能力を有する」とした認定が付与
され、民間紛争解決手続代理関係業務(ADR)を行うことができる※土地家屋調査士、「AD
R認定土地家屋調査士」となります。
日本土地家屋調査士会連合会は、過去14回全ての特別研修の実施法人となっています。
注意していただきたいのですが、特別研修の考査に合格した土地家屋調査士は、ADR認定土地家屋調査士になると思ってしまいますが、考査に合格しただけではADR認定土地家屋調査士と名乗ることは出来ません。
考査に合格した後、法務大臣に認定のための申請をして、認定を付与され初めて、ADR認定土地家屋調査士と名乗ることが出来ます。
私も、考査に合格すれば終わりと思っていました。
法務省ホームページ『土地家屋調査士民間紛争解決手続代理能力認定のページ』参照
特別研修の構成
- 基礎研修
- グループ研修
- 集合研修・総合講義
- 考査
以上の4部で構成されています。
私は、第14回特別研修に参加したのですが、各々にスタンプカードが配布され、受講した研修ごとににスタンプが押され受講状況を管理していました。
基礎研修
私が参加した第14回特別研修では、ビデオ講義による座学でした。
3日間、弁護士等の民事紛争の専門家によるビデオ講義を受けます。
内容は、民法や民事訴訟法や、紛争の原因になりやすい筆界と所有権界やそれに関する時効が主な内容でした。
教科書が配布され、それに従って講義が進められていきます。
グループ研修
期間としては一カ月ほど設けられています。
基礎研修を受けた会場ごとに、グループが編成されます。
そのグループで与えられた課題に関して討論して、意見をまとめて期限内に提出します。
このグループ研修では、会場が用意されていません。そのためグループごとに会議室を用意したりする必要があります。
私の場合は、グループ内の先生が事務所を貸してくださったため、その先生の事務所でグループ研修を行いました。
内容は、境界紛争事例の論点の整理と申立書の作成です。
境界紛争がおき民間紛争解決府代理業務をするあたって、ADR境界問題相談センターに申立書を出す必要があるのですが、その申立書をグループごとに作成して提出します。
私たちのグループでは、まず自ら申立書を作成し、その後グループ内で考えを共有し作成しました。
集合研修・総合講義
これが、最後の研修です。この研修では、弁護士の先生による、グループ討論の論点整理や解説が行われます。
内容は、グループ研修にて提出した申立書とその事例について、弁護士の先生の見解を聞きます。
私が受けていた会場では、各グループが提出した課題を弁護士の先生が、論点整理が弱い部分等のフィードバックする授業形式でおこなわれました。全員の前でグループ課題の発表などはなかったです。
先生の話を聞く、講義形式で行われました。
考査
グループ研修が終了して、一カ月ほどしたら認定考査の試験です。
考査の過去問は、択一問題と記述問題があります。
択一問題は、土地家屋調査士連合会のホームページにて掲載してますので、それを繰り返し勉強すれば、合格するのは難しくないと思います。
また、記述問題は、配布された教科書と過去問と必読書を使って勉強しました。
ほぼ毎年、筆界と時効取得にとって取得した所有権界が相違する際に民間紛争解決府代理業務でどのように解決していくかが問題になっています。
グループ課題をしっかりこなし、集合研修・総合講義で知識を整理できていれば、難しい内容ではありません。
考査の結果通知
土地家屋調査士連合会から修了の通知書と考査の結果が通知されます。
考査の点数とその認定のための基準点が通知されます。
ここで注意してほしいのが考査にしっかり合格等の記載がされていないことです。
あくまで認定考査を修了し、認定を付与するのは法務大臣のためだからです。
そのため、土地家屋調査士連合会の基準点が記載され、その基準点を満たしているものは、
自己の判断と責任のもとで、法務大臣の認定付与の申請を行います。
基準点を下回っても、申請することが出来るため、法務省で公開している認定の申請者と認定付与者の相違は、基準点に満たないものが申請をしている人数と言われています。
申請する者は、土地家屋調査士会を通じて、法務大臣に申請します。
修了証明書と考査成績証明書が一枚の用紙になっていて、考査成績証明書のみを切り取り申請します。
また、登録手数料として印紙を貼ります。
ちなみにこの年は、研修修了者が133名、申請者数が119名で、認定者が108名となっており、申請しても11名の方が認定されていませんでした。
土 地 家 屋 調 査 士 法 第 3 条 第 2 項 第 2 号 の 認 定 基 準 等 に つ い てを参照。
認定通知書の交付
しばらくすると法務局から通知が来ます。
法務局又は地方法務局へ、認定書を受領しに行きます。
郵送でも可能ですが、私は直接取りに行きました。
土地家屋調査士試験の合格証の交付式とは違い、担当者の方が個別に対応して認定書を渡してくださいます。
私の時は、土地家屋調査士なら職印、そして有資格者なら認印が必要だったので、忘れずに持っていきましょう。
受講人数が年々少なくなってきている
今回、特別研修について書いてきましたが、毎年その受験者はだんだん少なくなっていっているそうです。
私は、大阪会で受講したのですが、受講者は手の数で数えられる程でした。
そのため、関西圏の土地家屋調査士会が集まって、基礎研修とグループ研修を行っていました。
また、集合研修・総合講義では関西圏だけでは人数が少ないため、中部圏と合同に実施されました。
3日間研修のために、名古屋に泊りで受けに行きました。
昔は、大阪会だけで実施できたそうです。
民間紛争解決府代理業務は、ほぼ業務としてないため、そうなってしまうのは自然の流れなのかもしれません。
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